弁護士業界こぼれ話

【弁護士が解説】弁護士が独立する理由

 本記事では、弁護士が所属事務所から独立する理由について解説します。

本記事が想定する読者

 弁護士が独立する理由について知りたい方。

結論

  • 弁護士になった以上は自分の事務所を構えたい
  • 自分の顧客を多く抱えている
  • ボスとそりが合わなかった
  • ボスと条件が合わなかった
  • もともと契約期間が決まっていた

 以下、解説します。

弁護士になった以上は自分の事務所を構えたい

 司法試験合格のためには長い勉強時間が必要で、現在のところ、原則として、大学卒業後もロースクールで最低2年は学ばなければなりません。

 このような時間的コスト、金銭的コストを払ってまで司法試験を選択している以上、独立心の高い人が一定数います。

 民間企業への就職、公務員試験など、安定しているといわれる道を選択しなかった人たちの集まりなので、組織に従属したくないという傾向があるように思います。

 それは、法律事務所に就職した後も同じで、ずっと所長弁護士(ボス)の下で働くつもりはないという気概の人が多いのです。

 勤務弁護士をやっていると、主に事務所事件を処理することになりますが、どれだけ頑張っても、最終的にはボスの手柄になりますので、いつまでもその状態に甘んじることはできないということですね。

自分の顧客を多く抱えている

 先に気概の点を書きましたが、経済面も重要です。

 営業のうまい弁護士というのが確実にいて、そういう人は、弁護士1年目から「自分の顧客」を増やしていきます。

 つまり、事務所事件ではなく、個人事件の数が多くなるということです。

 そうなると、事務所事件を処理して事務所から給料をもらうより、自分の個人事件に集中したほうが儲かる、という人が出てきます。

 給料は青天井ではありませんので、経済的にもより上を目指したい人は、独立してリスクを背負うチャレンジをすることになります。

ボスとそりが合わなかった

 自分から積極的に独立するのではなく、ボスから事務所を追い出されてしまうというパターンもあります。

 人と人とのことなので、採用時は関係が良くても、だんだんと埋められないギャップが生じることがあります。

 別に独立心が強いわけでもなく、顧客を抱えているわけでもないが、独立せざるを得ないという状態です。

 うつ病になったり経営的に苦しくなって廃業したりするのは、このパターンの弁護士に多いと思います。

ボスと条件が合わなかった

 最近は、所長弁護士としても、勤務弁護士に「パートナー弁護士」として残ってほしいと思う人も多くなりました。

 ただ、この場合、お互いにとって条件がとても大切です。

 パートナーシップを組むということは、事務所の共同経営者になるということですから、出資に応じた配分を受ける権利があるということになります。

 日本の法律事務所の場合、法人形式ではないことがほとんどなので、出資はあまり求められませんが、事務所の経費負担を求められることになります。

この場合、

  • 全体の売上げから経費を除いた余りをパートナーで平等に分配する
  • それぞれのパートナーが固定経費(またはかかった経費の案分)を負担する

などのパターンがあります。

 通常、ボスと新人パートナーでは、キャリアが違いすぎるため、新人パートナーは一定の固定経費(または売上の〇%という形式の変動経費)を収める形式になることが多いと思います。

 大手事務所でも、一口にパートナーといっても、ネーミングパートナー(事務所名に名前が載るレベルのCEO)、シニアパートナー、ジュニアパートナーでは格が異なり、得られる配分も段違いになります。

 ボスとしては、勤務弁護士が独立してしまうと、また新人弁護士を採用して(採用コスト)、しかも育てなければなりません(育成コスト)。

 しかし、パートナーにするということは、給料制ではないので、これまでは勤務弁護士にいくら仕事を振っても経費(給料)は同じだったのが、パートナーだと売上は基本的にそのパートナーのものとなり、あとは経費を負担してもらえるだけということになるため、勤務弁護士がパートナーになることは、短期的には、決して経営的にプラスになるとは言い切れません。

 勤務弁護士側としても、独立にはリスクはあるが、パートナー条件が厳しすぎる(経費負担が大き過ぎる等)と、断ることも検討しなければなりません。

 ここが綱引きになりますが、もちろん、折り合えない場合があるということです。

もともと契約期間が決まっていた

 長年、番頭格として働いていた勤務弁護士が独立してしまうと、事務所としては稼ぎ頭を失うとともに、事件処理のノウハウも失ってしまうことになります。

 そこで、事務所によっては、勤務弁護士との契約期間を3~5年に限定し、必ず独立させているところがあります。

 そうすることで、勤務弁護士の採用スケジュールに余裕が持てるとともに、事件引継ぎ、ノウハウ承継もスムーズに行うことができ、しかも番頭格退所というボスにとっての不確定要素を無くすことができます。

 こういう事務所に就職する弁護士は、1年目から独立に向けての準備を進めることになります。

最後に

 弁護士の独立は、一般的には祝うべきこととされており、独立を記念するパーティが開かれたりもします。

 しかし、その裏には、様々な人間ドラマがあるのです。