弁護士の技法

【弁護士が解説】相続登記未了の不動産の処理方法

 本記事では、長年、相続登記が未了のままの不動産について、法律的にどのような処理が可能か解説します。

本記事が想定する読者

 相続登記未了の不動産があり困っている相続人の方。

結論

 時効取得による登記を検討すべし。

 以下、解説します。

相続登記の基本

 遺産に不動産が含まれている場合、遺言に従うか、相続人間で遺産分割協議をするなどして、まずは誰が取得するかを決めます。

 そして、方針が決まったら、司法書士に依頼するなどして相続登記をします。

 しかし、この相続登記は現在のところ法的義務ではなく、放置されることが多いのです。

 しかも、放置されたまま次の相続が生じ、さらにまた次の相続が生じるなどして、当該不動産に権利を有する相続人が100人近くになることもあります。

 そうなると、例えばこの不動産を売ろうと思っても、100人の同意が必要ということになります。

 また、ある相続人(多くの場合、居住者)が自分一人の登記にしたいと思っても、やはりこの100人の同意が必要ということになります。

相続人の数が少ない場合

 相続登記が未了でも、まだ相続人の数が少ない場合、各相続人に連絡を取り、相続分譲渡証書に署名押印(実印)してもらうことにより、相続登記は可能です。

 この場合、無償で協力を仰ぐこともあれば、一定の金銭支払を条件に協力してもらう場合もあります。

 ただし、いくら数が少なくても、協力してくれない方が一人でもいれば、単独所有の登記にすることはできません。

相続人の数が多い場合等

 相続開始からすでに50年以上が経過し、当初の相続人もすでに亡くなり、さらにその下の相続人に相続権が生じているような場合は、個別にお願いしても、すべての相続人に連絡が取れなかったり、協力をしてくれなかったりする相続人が出てきます。

 では、このような場合は、相続登記ができないのでしょうか。

 このような場合、時効取得による登記を検討します。

 例えば、X所有不動産があり、XにはA、B、Cの子がいたとします。

 Xが亡くなった後、Aがこの不動産を引き継ぎ、居住していました。

 A、B、Cにはそれぞれ5人の子がおり、A死亡後はAの長男αがこの不動産に居住しています。

 αとしては、他の相続人(親戚)とあまり行き来がなく、協力を頼みにくいという事情があったとします。

 本件不動産は、X→A→αと占有が承継されていますので、αは、Xの相続が開始した時点からAが本件不動産の占有を開始し、10年または20年が経過したとして、時効取得の成立を主張することができます。

(※注1 読み飛ばし可)α単独での占有を主張することもできますが、時効の起算点が遅くなると、別途の相続登記が必要となる場合があります。例えば、時効完成前にBやCが亡くなっていたとしたら、B・Cは登記義務者でなく、B・Cの相続人が登記義務者になるので、手続上、X死亡時点での相続登記がいったん必要になります。つまり、簡略化すると、X→αという移転登記ではなく、X→A・B・C→αという登記になる(一手間増える)ということです。

(※注2 読み飛ばし可)Aの占有開始は相続に起因していますので、これが自主占有といえるかについては争いになり得ます(つまり時効取得ができないケースもあり得ます)。

 ただし、この場合、相続人全員を被告とした訴訟を提起する必要があります。

 いきなり訴状が届いたら驚く人もいますので、訴訟提起の前に、各相続人には事情を説明した文書を出しておくのが丁寧です。

 通常、このケースで被告が争ってくることは少ないので(なので、上記の自主占有の問題もあまり争点にならない)、第一回期日で結審となり、数週間後には判決が出ます。

 この判決をもって、司法書士に依頼し、登記を完了することになります。

小括

 相続登記未了の不動産が増えていることが社会問題となっており、近年、立法的な解決が検討されているところではありますが、現状では、上記のような面倒な手続を経る必要があります。

 この問題は時間が経てば経つほど相続人の数が増えて解決が困難になってしまいますので、このような不動産に心当りのある方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。