弁護士法1条1項は、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定しています。
他方、弁護士は、依頼者の利益のためになるように行動しなければなりません。
では、弁護士は、この「社会正義」=「公」と、「依頼者の利益」=「私」をどのようにバランスさせているのでしょうか。
違法なことはしない
当然ですが、いくら依頼者のためとはいえ、刑事法規に触れるような違法なことをすることはできません。
例えば、刑事弁護人だからといって、依頼者(被告人)のために証拠隠滅行為をすることはできません。
明らかに不当なことはしない
では、違法なことでなければ何をやってもいいのでしょうか。
この点、弁護士職務基本規程31条は、「弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件を受任してはならない。」と規定しています。
つまり、違法でなくても「明らかに不当な事件」はやってはならないということです。
この「不当」ということについては、個別の事案の解釈に委ねられるところですが、例えば、私が挙げるとするなら、「請求原因事実が全くの虚偽であることが分かっているにもかかわらず嫌がらせ目的等のために訴訟提起をする場合」などがあてはまると考えられます。
だが守秘義務は堅守
弁護士という職業の信頼を確保するための最後の砦となるのがこの「守秘義務」です。
弁護士に相談するのに、弁護士が第三者にペラペラと内容をしゃべってもよいということになったら安心して相談できません。
また、弁護士に、違法行為をしてしまったので事後処理の方法について相談したのに、その弁護士に違法行為の通報義務があるというのでは、やはり弁護士という職業の根幹を揺るがしてしまいます。
もちろん、先に述べたように証拠隠滅行為等の積極的行為はできませんが、守秘義務という消極的態度の限りで、弁護士には通報義務等はないとされています。
受任・辞任の自由がある
弁護士と依頼者との契約関係は、「委任契約」という分類がなされています。
私人同士の任意の契約である以上、弁護士は、依頼者からの依頼を断る自由があります。「自由がある」とは、選択肢があることを指します。
また、仮に契約が成立したとしても、この委任契約は、委任者、受任者のいずれの側からも、いつでも自由に解除が可能であると解されています。
したがって、弁護士は、理由のいかんを問わず、依頼者からの事件以来を断ることもできますし、途中で理由を問わず自ら辞任することもできるのです。
この「理由を問わず」というのが肝で、弁護士は、自分の個人的価値観と照らし合わせて「不当」と考える事件の依頼を断ることができるということです。
よって、弁護士は、理念的には、社会正義の実現と依頼者の利益とが相反すると考えられるようなディレンマの状態にならないよう、そのような事件の依頼は断るということができるのです(現実はそう単純ではありませんが)。
最後に
本日解説したような議論のことを「弁護士倫理」の問題と呼んだりしますが、弁護士によって様々な考え方があり得るところです。
また近年、弁護士倫理の再考がなされているところでもあり、個人的には日々考え続けているテーマでもあります。
今回は、話を少しシンプルにして、大枠を整理してみました。
参考になれば幸いです。