世に溢れる交渉術の本には常に書かれていることですが、交渉は妥協点を探ることが大切です。
ここでいう妥協とは、お互いが真に求めていること、重視していること、または、あまり重視していないことを見極め、それらを組み合わせながらコミュニケーションを重ねていくことを指します。
今回は、一つの事例をもとに、妥協の方法について具体例を挙げてみたいと思います。
(事案)X弁護士は、Bに100万円を貸した(が返済されない)というAから事件を受任した。Y弁護士はBから事件を受任し、BはAからお金は借りていないと主張している。X弁護士とY弁護士は交渉を開始した。
・事案の分析
Aの100万円を返して欲しいという主張に対し、Bは借りていないという主張なのでゼロ回答ですね。
一見、妥協の余地はないように見えます。
しかし、次のような事実が付け加わったらどうでしょうか。
・追加する事実1「Bは、実際はAから100万円を借りていたが、すぐに一括で返すお金がないので、借りていないと主張していた。」
このような場合、Bは返済しなければならないことは分かっているので、あとは返済方法を協議すれば良いということになります。
妥協の余地が出てきましたね。
すぐの一括が無理なら、3か月後に一括で返済するとか、12回の分割払いにするとか、色々方法はあります。
・追加する事実2「AはBに100万円を振り込んだのでBの預金口座を知っているが、実際はBの預金口座の残高はほぼ0円である。」
Aが裁判で勝てば、Bの預金口座に対して差押えをすることができますが、残高がほぼ0円では100万円を回収することはできません。
強制執行の手段がないことは、交渉においてAにとって不利な事情になります。
Aは返済条件につき、あまり強くは出られないことになります。
・追加する事実3「AはBの勤務先を知っている。」
Aが裁判で勝てば、Bの給料を差し押さえることができます。
差し押さえることができる金額には制限がある、Bが仕事を変えてしまったら差押えができなくなる、という面もありますが、基本的にはAにとって有利な事情になります。
Aは、返済条件につき強気に出ることができます。
・追加する事実4「実は、AはBにお金を貸すときに返ってこなくても仕方がないと思っており、今回弁護士に相談したのは、Bが謝罪することなく開き直ったからであった。」
このような事情がある場合、Aがあまり拘らなければ、返済条件はかなり柔軟に決めることができるかもしれません。
ただし、合意書にBの謝罪条項の挿入が必要になる可能性はあります。
○小括
以上のように、周辺事実からも妥協の糸口は見えてくることがありますし、ちょっとしたことで大きく条件を変えなければならないこともあります。
少しでも交渉のダイナミズムを感じていただけましたでしょうか。