法的紛争は、当方の主張と相手方の主張が真っ向からぶつかっていることが多く、そのような場合、紛争の入口としては、当事者は自分の側にとって100%有利な主張を行うことになります。
しかし、紛争が終盤に差し掛かってくると、弁護士は、和解の可能性を探り、依頼者にも相談します。
依頼者によっては、「なぜそんな弱気なことを言うのだ!」、「せっかく弁護士に頼んでいるのになぜ譲歩しなければならなのだ!」、「私の味方ではないのか!」、「相手方の肩を持つのか!」等という感情を持たれる方もいるかもしれません(丁寧に説明すれば、通常、誤解は解けますが)。
本日は、弁護士が和解をすすめる理由について解説したいと思います。
ただし、弁護士側の事情により、依頼者のためというよりは、弁護士自身のために和解をすすめる人がいないとも限らないため、良い理由と悪い理由を両方挙げたいと思います。
良い理由1 敗訴のリスク回避
事件によっては、もともと負ける可能性が高いものもあれば、勝つ可能性が高いものもありますが、いずれにしても、裁判に絶対はありません。
どんな事件でも負ける可能性が少しでもある以上は、和解することはそのリスクを回避することに繋がります。
良い理由2 権利実現不能リスクの回避
裁判で勝てたとしても、裁判で認定してもらった権利を実現できるかどうかは、その後の手続きの成否によります。
交渉によって100%の権利実現ができることもありますが、相手方が任意に履行しない場合は、費用を掛けて強制執行をしなければなりません。
そして強制執行は、必ずうまくいくとは限りません。
その意味で、和解して任意の履行を促すことは、強制執行不奏功のリスクを回避することに繋がります。
良い理由3 時間の節約
判決をもらうためには審理を尽くし、多くの場合、本人尋問も必要になります。
一審の判決には控訴をすることもでき、控訴審でも長い時間がかかることがあります(一審判決とは異なる結論となることもあります)。強制執行を貫徹する場合にも長い時間がかかります。
紛争に時間がかかるということは、依頼者にとっても、打合せのなどの手間がかかることを意味します。
また、紛争が継続していることは依頼者にとってストレスにもなります。
和解による早期解決には時間の節約というメリットがあります。
良い理由4 弁護士費用の節約
仮に、タイムチャージで弁護士に依頼している場合は、長い時間がかかればかかるだけ弁護士費用は高くなります。
着手金・報酬金形式で依頼している場合でも、委任契約の内容によっては、当初想定していたよりも長い時間がかかっているときには所定の追加着手金が発生することがあります。
和解による早期解決を図ることは、弁護士費用の節約になることがあります。
悪い理由1 早く報酬金が欲しい
そういう弁護士はいないと思いたいですが、依頼者にとって決して良い条件ではないのに、早くに報酬金が欲しいという理由で和解をすすめる弁護士もいるかもしれません。
悪い理由2 早く事件から離れたい
依頼者からの要求が厳しい事件などは弁護士にとっても大きなプレッシャーがかかります。
そのようなプレッシャーから解放されたいという欲求が、事件の解決を焦らせる理由になることがあるかもしれません。
○小括
公平を期すため、あえて悪い理由も書きましたが、基本的には、依頼者のためにならない条件の和解の場合、依頼者自身がその不当性に気付くことも多いと推測されます。
また、もし依頼者にとってより良い条件を目指すことができる事案だとしたら、弁護士にとっても、より高い経済的利益獲得が目指せるということを意味し、より高い報酬金獲得のチャンスがあるということになります。
したがって、依頼者にとってあえて不利な条件で和解するインセンティブが弁護士に生じることはあまりないといえます。