前回は、弁護士が交渉上手とはいえない理由について解説しましたが、今回は、私の考える交渉のあり方について解説します。
交渉術のような大げさな話をするつもりはありません。
私が交渉にあたって、日頃、心掛けていることをお話ししたいと思います。
1 手持ちの証拠の吟味
まずは当方の証拠関係を徹底的に洗い出し、どのように料理するかを決めます。
足らない材料がある場合には、証拠収集に動きます。
2 相手方の主張、証拠の推測
合わせて、相手方がどのような主張をする可能性があるか、どのような証拠を持っている可能性があるかを推測します。
3 判決になったときの見込みを確かめる
そして、それら証拠を前提に、現状が裁判外の交渉であれ裁判中の交渉であれ、判決になった場合の結論、その後の手続及びそこから派生する状況について、複数のシナリオを検討します。
4 達成するラインを決める
判決になった場合の見込み、時間、費用等コストを勘案し、依頼者との間で達成ラインを決めます。
ここで大切なのは、あまり厳密に決めてしまうと後から柔軟な対応がしにくくなるので、まずは大まかに決めておくことです。
なお、最初から譲歩の検討をすると、依頼者の反感を買うこともあるので、依頼者と相談するタイミングは事案により慎重に行います。
5 相手方との交渉に入る
交渉への入り方も重要です。
電話、書面、面談など、適切と思われる方法を選択します。
また、すぐに条件提示などをすると、軽く見られることもありますから、話し合いをすることが双方にとって利益のあることだということを確認した上で、慎重に条件交渉に入ります。
相手方から数字を言わせるよう誘導することもあります。
6 相手方の反応をみつつ軌道修正
交渉に入って初めて分かる相手方の事情などもあります。
前提を修正しながら、条件の擦り合わせを行います。
7 合意形成
主要な条件が決まったら、通常、合意内容を書面化します。
訴外和解とするのか、裁判上の和解とするのか、公正証書とするのか、即決和解とするのか等、様々な方法があります。
謝罪条項の有無、精算条項の範囲などで最後の最後にまた揉めてしまうこともあるので最後まで気が抜けません。
○小括
交渉のやり方に正解はありませんが、少なくとも、場当たり的なやり方ではまずうまくいきません。
綿密な準備、臨機応変な対応、依頼者との信頼関係構築が不可欠です。