今回の記事では「弁護士の専門分野」について解説します。
〇本記事が想定する読者
「弁護士の専門分野について知りたい方」
〇結論
弁護士には得意、不得意な分野があるため、弁護士に依頼する際は、その弁護士の専門分野を確認しておいたほうが良いが、あくまで「自称」であるため、その判断は困難なことが多い。
ありがちな質問
「ところで先生のご専門は?」というのは、弁護士が一番良く聞かれる質問かもしれません。
しかしこれは、多くの弁護士にとって、とても答えにくい質問ではないかと思います。
なぜなら、ここで「何でもやりますよ」と答えてしまうと、専門性のない特色のない弁護士だと思われてしまう可能性がありますし、反対に、「専門は○○です」と答えると、他の分野はできないと思われてしまうかもしれません。
少し工夫した答え方として「専門は○○と△△と××で、最近は□□も多いですね」と列挙する方法もありますが、たくさん挙げると結局あまり印象に残らないというデメリットがあります。
ただ、弁護士の専門分野を質問する人は、何か相談したいことがあり、この弁護士に相談しても良いかどうか確かめている、ということがありますので、できるだけ幅広く答えた方が安心して相談してもらえるということもあります。
では弁護士の専門分野とは?
ある分野について強い弁護士でも、一つの分野しかやらないと決めている弁護士はかなり少数派だと思いますので、多くの弁護士にとってこの質問は頭の痛い問題かもしれません。
弁護士の多くは、一般民事と呼ばれる分野を扱っています。
これは言い換えると、民事事件全般を扱えますよ、という意味です。
だから、貸金返還請求、離婚、相続、不動産明渡し等の分野について、専門外だから扱えない、という弁護士はほぼいない思います。
したがって、上記のような分野について、わざわざ「専門性の高い弁護士」を探す必要はあまりないといえます。
専門性の高い分野とは?
では、必ずしも多くの弁護士が扱えるわけではない、専門性の高い分野とは何でしょうか。
思いつくままに列挙してみます。
〇刑事事件(裁判員裁判対象事件)
刑事事件を扱えないという弁護士は少ないですが、刑事事件のうち、裁判員裁判対象事件については、弁護士の力量による差が付きやすいという意味で、専門性が高い部類に属するといえます。
特に、否認事件については、経験による差が大きいと考えられます。
〇労働事件
労働者側にせよ企業側にせよ、労働事件もやや専門性が高いといえる分野です。
解雇規制の解釈論くらいは誰でも知っていますが、例えば時間外手当(いわゆる残業代)の計算方法や解釈論については、個々の裁判例などを日々キャッチアップするのはそれなりに大変です。
〇交通事故事件
交通事故事件については、扱っている弁護士は多いですが、比較的専門性が高い部類に入ると思います。
任意保険(対人対物保険、車両保険、人身傷害保険)・自賠責保険・労災保険の関係性、過失割合の実務上の塩梅等は、それなりに経験を積まないと全体像の把握すら困難です。
また、後遺障害認定の実務、カルテの読み方など若干の医学的知見も必要なので、昨日今日の経験では対応できません。
〇建築紛争
いわゆる欠陥住宅問題などは、建築基準法の知識に加えて、建築実務の知識(建物の構造や用語等)が必要となってくるので、一から勉強しなければなりません。
建築紛争を多く扱っている弁護士は、二級建築士の資格を取っている人もいます。
〇企業法務全般
「企業法務は総合芸術」という言葉を聞いたことがありますが、これは、簡単な契約書チェックから労務相談、対外的なトラブル対応まで、非常に幅広い知見とノウハウが求められるという意味だと思います。
特定の法分野についての専門性ということではなく、弁護士としての基礎体力(幅広い法的知識、社会的知見、経験、柔軟性等)がなければならないという意味で、弁護士の能力差が出る分野だと思います。
〇消費者被害事件
消費者契約法違反、特定商取引法違反、その他詐欺など、大抵一件一件の被害額は決して多額ではないが、法的に勝訴したり返金を受けたりするのが非常に困難というのが消費者被害事件の特色です。
それゆえ、どのような弁護士でも扱えるとはいえず、消費者被害の回復に積極的な弁護士に依頼すべきといえます。
詐欺(まがい)の行為は、手を変え品を変え次々と出てきますので、そういう弁護士でないと、他の被害事例や解決事例を知らないということもあります。
〇商標法、不正競争防止法
会社の相談を聞いていると、たまに使わなければならないのが商標法、不正競争防止法です。
そこまで専門性が高い分野とはいえませんが、あまり使ったことがないという弁護士も多いと思います。
〇特許法
特許法は、比較的大きな企業の相談を聞いていないと、普段あまり使うことはないと思います。
専門性はかなり高い部類に属すると思います。
どうやって専門性のあるなしを判断するのか
それほど専門性が高くない分野、専門性が比較的高い分野、専門性がかなり高い分野について、思いつくままに挙げてみましたが、もちろん、法分野はこれに限ったものではありませんし、ある分野の中でもさらに専門性が分岐しているということがあります。
また、例えば専門性があまり高くない分野として挙げた離婚事件や相続事件でも、もちろん弁護士の能力差はあると思います。
最近は、法律事務所のホームページなどで、「取扱業務」の項目に分野を限定列挙して、その専門性をアピールするところも増えてきました。
中には、その分野に特化したホームページを作っている事務所もあります。
ただ、これはあくまで「自称」による宣伝であって、その弁護士において、その分野の専門性がどこまで高く、また深いのかを判断することはなかなか困難です。
逆に、「取扱分野」に明示していなかったからといって、扱うことができないということもまた意味しません。
小括
依頼者の側からすると、その分野の専門家の弁護士に依頼したいと考えるのが普通です。
しかし、上記のとおり、傍から見て弁護士の専門性を判断することは簡単ではありません。
もし弁護士の知り合いがいれば、その分野の専門性を有する弁護士を紹介してもらえるかもしれませんが、弁護士の知り合いがいるという方がそもそも少ないと思います。
そこで、基本に立ち返り、以前の記事でも解説したように、面談時のコミュニケーションの円滑性、見通しの説明の明瞭さ、弁護士報酬の説明の明瞭さなどから、その弁護士に依頼しても良いかどうかを判断するしかないと考えられます。