法曹界の業界用語として、「筋の良い事件」、「筋の悪い事件」という言葉があります。
「あそこの事務所は筋の良い事件しかやらない」、「この事件は筋が悪い」などのように使います。
法律家によって、この言葉の定義は一様でないのですが、私の考えを述べたいと思います。
〇筋が良い事件、筋の悪い事件とは?
1 勝ち目の薄い事件?
弁護士によっては、客観的な証拠があまりなく、勝ち目が薄い事件のことを「筋が悪い事件」と表現することがあります。
ただ、この場合、単に「勝ち目が薄い」と言えばよいので、あえて「筋が悪い」などと遠回しな表現をする必要がありません。
したがって、この場合は誤用の疑いがあります。
同様に、証拠が豊富で勝つ確率が高い事件のことをわざわざ「筋が良い事件」とは言いません。
むしろ、確固とした証拠がなくとも、「筋が良い事件」ということがあります。
2 依頼者の属性の問題
契約書などの証拠はきっちり存在するが、依頼者が反社会的勢力に属する者である疑いがあるなど、依頼者の属性に問題があるような場合に、「筋が悪い」と表現することがあります。
このような事例では、証拠の作成過程や、契約内容の妥当性にそもそも問題がある可能性があります。
3 請求内容の問題
契約書など客観証拠が存在するものの、現在の社会情勢や常識などの観点から実質的にみて妥当性を欠くような請求内容である場合、「筋が悪い」と表現することがあります。
形式論では勝訴する可能性が高くても、契約の一般条項(信義則、公序良俗)や特別法(消費者契約法)が適用され、無効の判断がなされる可能性があります。
4 法律構成の選択の問題
事件そのものではなく、数ある法律構成の中から選択した主張に関し、「筋の悪い主張」という表現がされることがあります。
この場合は、主として、認められる可能性の低い主張という意味合いがあります。
この筋の悪い主張を取捨選択するバランスについては、弁護士にセンスが求められます。
〇小括
「あまり筋の悪い事件は受任したくない」という弁護士もいれば、「筋の良い事件で勝つのは当たり前、筋の悪い事件で結果を出すのが弁護士の醍醐味である」という弁護士もいます。考え方は色々ですね。
裁判官が筋の良し悪しを語る場合は、請求を認めるか否かの心象形成におけるメタ判断のような役割を果たします。
個人的には、筋が良い、筋が悪いという言葉は使わないようにしています。
弁護士がこの言葉を使うとき、負けたときの言い訳として用いていることが多いように観察されるからです。
そもそも、依頼者から丁寧に聞き取りをして、意向を十分に確認した上で、事件の見通しとリスクを説明し、それで受任に至った事件であるならば、筋が悪いからどうこうという必要はありません。
もし弁護士がこのような言葉を使うのを聞いたら要注意です。