弁護士業務には、法律相談、受任後の打合せ、書類作成、裁判所出頭など、様々なものがあります。
今回は、その中で、個人的に好きな作業を3つ挙げ、その理由をお話ししたいと思います。
個人的な趣向についてお話しするのは少し気が引けますが、弁護士業務の一端の理解に役立つかもしれないと思い、企画してみました。
3位 和解案の作成
和解案は、交渉を経て、事件が終盤に差し掛かり、和解できることがほぼ決まってから作成します。
つまり、この和解案の作成の段階では、事件がようやく終わる(かもしれない)という達成感があります。
また、この和解をもって紛争の終局的解決にするためには、細心の注意を払って、後日の紛争の種を残さないようにしておかなければなりません。
その意味で、繊細な作業が求められます。
いずれにしても、事件の終わりが見えているという意味で、コスパの良い作業になりますので、やりがいも出てきます。
なお、交通事故のように被害者・加害者が分かれるような事件における和解(合意)のことを「示談」と言うことがありますが、「示談」も「和解」の一種です。
2位 訴状の作成
依頼者からの要望を達成するための手段は、一つとは限りません。
弁護士は、その多数の選択肢の中からベストと思われるものを掬いあげて実行していきます。
そして、訴訟が選択肢になる場合、その訴状の書き方は一様ではありません。
事件により、法律構成を工夫しなければならないことがありますし、まずは事件の概要を書くべきであったり、本訴に至る経過を充実させる場合もあります。
ときに、重要な書証を最初はあえて出さないという戦術を取ることもあります。
このような訴訟提起のやり方によって、その後の勝率に大きな影響がありますので、訴訟提起の段階で、その後に想定されるやりとりはできるだけシミュレーションしておくのです。
初手をどのように指すのか、弁護士は最初の一手に最も時間を使うことになります。
この先読みの能力が弁護士の能力であり、弁護士業務の醍醐味でもあります。
1位 答弁書の作成
訴訟提起をされた被告から事件を受任する場合、答弁書を作成しなければなりません。
大抵の場合、原告は勝てると思って訴訟提起をしてきているので、どちらかといえば、被告側は劣勢になることが多いです。
答弁書の作成は、原告が訴状ですでに陣形を固めている中で、こちらが初手をどのように指すのか、その受け方を問われているといえます。
訴訟というのは、原告の請求の当否を判断する場であるため、基本的にはその立証責任は原告にあります。
理論的には、被告は、原告の請求原因事実が「なかった」ことを立証する必要はなく、「あったかなかったか分からない」状態にすれば勝ち、ということになります(ただし、民事裁判においては、「証拠の優越」という考え方があり、「どちからかといえばこっち」という程度で立証があったものと扱われることがあります)。
つまり、原告側と被告側とでは、とるべき戦略が全く異なるということです。
被告側は、原告側の立証が弱い部分を徹底的に攻撃し、その陣形を崩していくことに注力するのです。
いずれも戦略や戦術を考えなければならない知的作業といえる中、私が訴状作成よりも答弁書作成を上位にしているのは、訴状作成の場合は自由度が高く、また勝ち切らなければならないというプレッシャーが強いという側面がありますが、答弁書作成においては、自由度が比較的少なく、プレッシャーも(あくまで相対的にですが)低い傾向があるためです。
あえて極端に感覚的な例えをするならば、
- 訴状作成:白いキャンバスに絵を描いて採点官からA評価をもらわないといけない状況
- 答弁書作成:ヒントの少ないクロスワードパズルを完璧に解かなければならない状況
といえるかもしれません。
最後に
お前は答弁書作成をクロスワードパズルと同じ感覚でやっているのかというお叱りを受けるかもしれませんが、あくまでエンタメとしての極端な例示ですので、ご了承下さい。
他の弁護士がどうかは知りませんが、私としては、あれこれ先を見据えながら書面を作成している瞬間を楽しいと感じるというお話でした。