令和2年7月17日付けで、総務省、法務省、経済産業省の連名で、「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」が発表されました。
本記事では、同Q&Aの内容について解説します。
電子署名法の内容
直接紙に署名押印をしない電子契約について、それが契約(署名)として有効であるか否かは解釈の余地があるところ、これを法律によって裏付けを与えたのが、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)です。
そして、電子署名法にいう「電子署名」(2条1項)に該当するためには、
- その情報がその措置を行った者の作成であることを示すためのものであること
- その情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること
の2つの要件を満たすことが必要になります。
これまでの考え方
これまでは「電子署名」というと、契約当事者それぞれが「鍵」を保有している状態で契約をすることを前提としていました(上記要件のうち「その措置を行った者の作成である」という点との関連)。
しかし、契約当事者が「鍵」を保有することには手間やコストがかかることが問題でした。
そこで、契約当事者が「鍵」を保有するのではなく、サービス提供事業者が鍵を保有し、契約名義の真正、契約内容に改ざんがないことを担保するシステムが構築されています。
しかし、この簡易なシステムでは、サービス提供事業者が「鍵」を保有しているので、電子署名における「その措置を行った者の作成」という要件を満たさないのではないかということが問題点として残っていました。
そのため、このようなサービスは、電子署名法上の「電子署名」であるとはいえないのではないかと、その有効性に疑問が投げかけられていました。
Q&Aの考え方
本Q&Aでは、仮にサービス提供事業者が「鍵」を保有するシステムであっても、サービス提供事業者の意思を介在させる余地がなく、オートマティックに契約当事者の意思のみによって手続きが行われ、しかも、利用者情報、利用日時が事後的に確認できるようなシステムであれば、サービス利用者が「その措置を行った者」であると言い得るとされています。
これにより、現行の簡易なシステムによる電子契約であっても、電子署名法2条にいう「電子署名」に該当し得ることを所轄官庁が認めたことになりますので、電子契約の利用をためらっていた企業への後押しになると思われます。
電子署名法3条の推定
電子署名法3条は、真正に成立したものと推定できる電子署名について、法2条の「電子署名」のうち、「これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。」とされているので、サービス提供事業者が「鍵」を保有するシステムは、これに該当しないと考えらえます。
最後に
本Q&Aは、あくまでも行政府の解釈(意見)であって、裁判所はこれを異なる法解釈をすることもできます。
また、本Q&Aは、どの事業者のシステムならOKということまでは教えてくれません。
電子契約を取り入れる際は、電子署名法2条の「電子署名」に該当するか、または電子署名法3条の推定を受けることができるか否かについて、その企業の見解や理由付けにも注目する必要がありそうです。