時事

ふるさと納税訴訟(泉佐野市)の最高裁判決の解説

 本記事では、泉佐野市が提起したふるさと納税訴訟の最高裁判決(最判令和2年6月30日)について解説します。

事案の概要

 もはや説明不要なくらい浸透している「ふるさと納税制度」ですが、判決文中の「事実関係の概要」に従って、時系列を整理しておきます。

・平成20年法律第21号による地方税法の一部改正により、地方団体への寄付金の一部につき、所得税の所得控除及び個人住民税の税額控除がなされることになった(いわゆる「ふるさと納税制度」)。

・総務大臣による平成27年4月1日付け通知(納税企第39号)、平成28年4月1日付け通知(納税企第37号)の発出。「換金性の高いものや返礼割合の高いものを送付しないようにしなさい」という内容。

・総務大臣による平成29年4月1日付け通知(納税市第28号)、平成30年4月1日付け通知(納税市第37号)の発出。「返礼割合を3割以下に抑えなさい」、「返礼品は地場産品に限定しなさい」という内容。

・平成31年3月27日、平成31年法律第2号が成立。ふるさと納税として税の特例控除の対象となる寄附金について、基準に適合する地方団体として総務大臣が指定するものに対するものに限られるという制度(指定制度)が導入され、同年6月1日から施行された。

・泉佐野市の寄附金受領額は、平成27年度に約12億円、平成28年度に約35億円、平成29年度に約135億円、平成30年度に約498億円であった(29年と30年は全地方団体の中でトップ)。

・泉佐野市は、平成31年4月5日付けで指定の申出をしたが、令和元年5月14日付けで不指定の通知がなされた。

・不指定の理由は、「申出以前に(厳密には平成30年11月1日から申出書を提出する日までの間に)返礼割合が3割を超え、または地場産品以外の返礼品を提供を行っていたこと」等であった。

・泉佐野市は、不指定の取消しを求めて訴訟提起をした。

判決の内容

 原審は不指定が適法であると判断しましたが、最高裁は、以下に述べる理由で、不指定は違法であると判断しました。

・不指定をするには法律上の根拠が必要であり、本件不指定の直接的な判断根拠となっている告示(処分基準を具体化したもの)の内容が適切か否か(法の委任の範囲を逸脱していないか)が問題となる。

・指定制度導入以前には、返礼品の提供について特に定める法令上の規制は存在しなかった。

・総務大臣による各通知は、これに従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないと規定されている。

・指定制度は、制度導入前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとすることを予定しているとはいえない。

・指定制度は、立法者が政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄であり、(行政府に属する)総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄とはいい難い。

・したがって、告示のうち、法施行前について定める部分は違法無効である。

・泉佐野市の返礼品を強調した寄附金募集のやりかたは社会通念上節度を欠いていたといえるが、今後も本件改正規定に適合しないやりかたで返礼品等を提供する予定があるとまではいえない。

・よって、不指定の理由は適法とはいえないため、本件不指定は違法無効である。

補足意見

〇宮崎裕子裁判官の補足意見(くだけた要約)

 そもそも、寄附金と税金とは概念を異にするものであるところ、本件改正前の「ふるさと納税制度」にはこれら概念の調整や具体的規制が存在せず、野放図になっていた。

 だから、その状態における特定の地方団体の行為について、制度趣旨に反するとか、制度趣旨をゆがめるとか言っても、そもそも基準がないのであるから判断のしようがない。

〇林景一裁判官の補足意見(くだけた要約)

 今回の判決の結論は「いささか居心地の悪さを覚えた」。

 泉佐野市はふるさと納税制度から得ることが通常期待される水準を大きく上回る収入を得てしまっており、他の地方団体と同じスタートラインに立たさなくても、それほど不当ではないと思われる。

 しかし、それは当不当のレベルの価値判断であり、法的には、法律レベルで明示的な規定を設けることを追求すべきであったといえる(ただ、そんなあからさまなことはできなかったようだ)。

最後に

 この判決をした最高裁第三小法廷には元は行政法の研究者であえる宇賀克也裁判官がおられるので、今回の判決については宇賀裁判官の影響が大きかったのではないでしょうか。

 もともとあまり注目していなかったので、判決文を読み込んでみてなるほどと思うところが多かったですね。

 法の委任の論点(立法府と行政府のパワーバランス)については、議院内閣制を採用している日本においてはあまりピンとこない部分もありますが、建前としては法律家の間であまり異論が出なさそうな内容だと思いました。

 上告代理人は阿部泰隆弁護士(元は行政法の研究者)であり、行政法のプロが関わっている質の高い重要判例といえます。