弁護士は基本的に、適法な範囲で、依頼者の利益を最大化するように行動します。
例えば、1000万円の貸金返還請求を受任した場合、できる限り1000万円全額(と遅延損害金)を回収するよう努力します。
では例えば、弁護士は、事件受任後3か月後に500万円を回収できるチャンスがあったとしても、1年後に1000万円を回収する可能性が数%でもあれば、1000万円の回収に拘るべきなのでしょうか。
なかなか一般化するのが難しいのですが、ある時点において、それほど時間のかからない50%の成果と、より時間のかかる100%に近い成果が想定できるような場合を念頭に置いています。
ここで考えなければならないのは「時間の価値」です。
〇時間の価値1 解決の時期を逃してしまうリスク
時間をかければかけるだけ良い結果となるとは限りません。
事件解決には適した時期というものがあり、その時機を逸するとそもそも事件解決ができないという事態も生じることがあります。
その典型は、人の気持ちです。
争いを続けることにより、より憎悪が根深くなり、修復不可能な状況になってしまうこともあります。
これにより、客観的には解決しておくべき内容になっているにもかかわらず、感情的な理由により合意ができず、不毛な紛争が続いていくことがあります。
〇時間の価値2 状況が不利になるリスク
社会情勢の変化や法制度の変更により、当初予定していた解決の前提が変わってしまうことがあります。
また、それまでは証拠的に有利な状況であったにもかかわらず、時間が経つことにより例えばこちらに不利な証言をする第三者が現れることも考えられます。
こちらが有利なうちに、またはこれ以上不利にならないうちに解決しておくというのは戦略上よくあります。
〇時間の価値3 時は金なり
弁護士に依頼しているとはいえ、事件処理には依頼者ご本人の手間もかかり、時間がかかればかかるだけコストとしてのしかかってきます。
また、事件が解決していないと依頼者の方には精神的負荷がかかり続けます。
このような時間的コスト(物理的・心理的コスト)も、時間の価値として無視できない点です。
〇小括
弁護士は、事件の見通しを立てるときに、時間的なコストも考慮に入れて検討します。
早期解決には経時的に生じるリスクをヘッジする意味もあります。
法的紛争の解決にあたっては、内容それ自体に加え、時期を逸しないようにするバランス感覚と、それについて依頼者の方に丁寧に説明する姿勢が必要となります。