以前、テレビで著名な弁護士の先生が裁判の勝率を聞かれて「80%くらいです」と答えておられました。
仮に平均的弁護士の勝率が50%だとすると、80%はかなり優秀ということになると思います。
しかし、弁護士にとって、この「裁判での勝率」という言葉には少し違和感があります。
今回は、その理由について3つの側面から解説してみたいと思います。
1 そもそも勝ち負けという言葉では括れない事件が多い
例えば、離婚調停事件で、妻側が親権、慰謝料200万円、財産分与500万円を主張し、夫側が面会交流を主張したケースを考えてみます。
慰謝料、財産分与については金額が問題となりますし、面会交流は可否、頻度及び実施方法が争点になります。
成立した調停内容は、妻側が親権を得て、慰謝料として100万円、財産分与300万円、面会交流は月1回半日実施と決まったとします。
この場合、勝ったのは妻側でしょうか、夫側でしょうか。
その判断は誰にもできないと思います。
現実の法的紛争というのは、そもそも勝ち負けが明確につくような争点設定にはならないし、それゆえ勝ち負けのはっきりしない解決となることが多いです(それは決して悪いことではないと思います)。
2 事件により各弁護士の獲得目標が異なる
逆に、裁判の結果としては勝ち負けがはっきりする事件というものもあります。
一方はお金を貸したと主張し、他方が借りていないと主張するような事案だと、貸したことが立証できれば貸主側の勝ち、貸したことが立証できなければ借主側の勝ちということになります。
ではその勝ち負けは、常に弁護士の勝ち負けを意味するのでしょうか。
お金を貸したという認定がされて借主側に支払い義務が生じた場合を考えてみます。
実は、借主側の弁護士は、受任する際に、この裁判はお金を貸したという認定がされる可能性が高いと依頼者に説明していました。
それで依頼者は、ではせめて分割払いで済むように話をまとめて欲しいと依頼しました。
裁判では貸し借りの有無を争いましたが、ここで負けるのは想定内。
和解協議において2年間の分割払いが合意されました。
さて、借主側の弁護士は負けたのでしょうか。
決してそうではありません。
当初の獲得目標を達成していますので、依頼者の満足も得られ、弁護士として十分な仕事をしたといえると思います。
3 勝率が高くなる構造になっている
弁護士が相談を受けて訴訟提起をするにあたっては、当然、証拠関係を精査します。
その検討を経て訴訟提起という決断を下す以上、その時点で、勝訴の見込みがあるわけです。
ですから、原告側の弁護士の勝率が高いのは当然といえます。
また、被告側から受任する弁護士も、訴状と書証を見た上で、見込みを依頼者に説明します。
絶対に負けると説明する弁護士に依頼する人はいませんから、受任する場合はやはりある程度の見込みがあるわけです。
もし、形式的には敗訴必至だったとしても、上記2のように、別の獲得目標を設定可能な事案もあります。
したがって、原告側にせよ、被告側にせよ、弁護士の(客観及び主観を合わせた)勝率が高くなるのは必然といえます。
〇小括
そもそも、勝ち負けが簡単に判定できないのに、裁判の勝ち負けを集計して勝率を計算しているような弁護士はいないと思いますので、弁護士に裁判の勝率を尋ねることはあまり意味のないことかと思います(冒頭で述べた著名弁護士も、視聴者へのサービスとして話したに過ぎないと思います)。