これまでの記事では、弁護士選びのポイントなどを解説してきました。
そこでは、「弁護士の能力の高さ」についてはあえてポイントに挙げませんでした。
今回は、その理由とともに、「弁護士の能力」について説明したいと思います。
弁護士は法律専門職ですが、法分野が多岐にわたる以上、弁護士によってその専門性などに差があるのは当然です。
また、依頼者にとっては、「能力の高い弁護士」に依頼したいと思うのもまた当然です。
では、「能力の高い弁護士」とはどういう弁護士のことを指すのでしょうか。
○弁護士の能力 4つのポイント
1 法的知識の深さ・広さ
法律専門職である以上、全般的な法的知識があるのは当然です。
しかし、特定分野について細かな解釈論や数多くの重要判例の背景を知っているというような知識面の強みが事案の解決に効いてくることが多々あります。
また、法律や概説書には必ずしも書いていない実務慣行なども、その分野に精通する弁護士のみが暗黙知として知っているということがあります。
2 社会的知識の深さ・広さ
法的知識だけあっても、事件を解決することはできません。
具体的な事案を分析し、それを法律にあてはめる作業が必要です。
また、事案分析に際しては、その業界特有の事情やテクニカルタームの知識などがないと見当違いの結論を出してしまう危険性があります。
なお、弁護士が全ての業界に通暁していることはなく、それゆえ、謙虚な気持ちで依頼者から丹念に業界慣行などの聴き取りをするのが本来ですが、そういった姿勢があるかどうかも弁護士の重要な能力の一つです。
3 コミュニケーション能力
知識だけあっても事件は解決しません。
依頼者から事実関係、意向などを聞き出す能力、あるべき道筋を示す能力、相手方との交渉力(押し引きのバランス)、落としどころを察知する能力など総合的な力が求められます(一言で適切に表現するのが難しいので、ここでは単にコミュニケーション能力と表現しています)。
4 レスポンスの速さ
以前の記事(弁護士を選ぶ際の3つのポイント)でも挙げましたが、レスポンスの速さも弁護士の能力の一つと考えられます。
以上、4つのポイントを挙げましたが、ここで強調したいのは、依頼者は、この4つのポイントについて、原則として依頼する弁護士にその能力が備わっているかどうかを判断することが難しい、ということです。
なぜなら、依頼者にとって、弁護士に依頼するというのは人生に1度あるかないかの出来事であり、複数の弁護士の間で比較することができないからです。
1「法的知識」は、一般の方が欠如を見抜くのは至難の業ですし、2「社会的知識」も、弁護士であればこれくらいは知っているはずという基準を持ちにくいと思います。
3「コミュニケーション能力」については、打合せでの会話くらいでは交渉上手かどうかは判断できないでしょうし、4「レスポンスの速さ」についても、忙しいから遅いのだろうと好意的に解釈する方もおられます(個人的には、営業日基準で48時間以上返信がない場合はレスポンスが遅いと評価して良いと思います)。
○小括
以上、弁護士の能力について、できるだけ抽象化してお話ししましたが、その他にも、物腰の柔らかさ(相談しやすさ)、事務所体制の構築(IT環境、事務局による応接・電話受付体制等)など、細かな点を挙げればきりがないともいえます。
弁護士の能力を測るのが難しいということは、期待値が高すぎる場合は不満が生じやすく(かといって弁護士を変えても不満は解消されない)、期待値が低すぎる場合は十分なサービスが受けられない(そもそも弁護士を変えようという動機が生じない)ということを指します。
結局、依頼者の方からすると、スムーズに会話ができるか、レスポンスが早いかなどの当り前な部分で能力を推し量るなど、「弁護士を選ぶ際の3つのポイント」をチェックしながら判断するしかないといえます。