本記事では、弁護士にとっての「難しい事件」とはどんな事件を指すのかについて解説します。
書証のない事件
例えば、ある合意を立証しなければならないのに、何ら書証もないということが往々としてあります。
一般の方は、普通、後日のための証拠を残しておかないといけないという風にはあまり考えないからです。
書証というのは、何も契約書のようなものだけを指すのではなく、例えばLINEのトーク履歴なども立派な書証になります。
何も客観的な裏付けがなく、純粋な口約束だった場合、相手方から合意の存在を否定されてしまうと、それ以上の立証ができないということがあります。
類型的にハードルが高い事件
例えば、解雇無効を主張された企業側の弁護士は、解雇の有効性を主張しなければなりませんが、解雇が有効と認定されるためにはよほどの事情が必要ですので、かなり高いハードルを越える必要があります。
ただし、労働事件に慣れていない企業にはそれがなかなか理解してもらえないので、企業側の弁護士はまず、依頼者に労働事件の実務状況の説明からしなければなりません。
また離婚事件で父親が子の親権を主張することも困難といえます。
親権は母親が圧倒的に有利で、虐待の事実があるなど、かなりの事情がないと、父親に親権が認められることはありません。
さらに、実印の押された契約書の無効主張をする場合なども類型的に難しい事件といえます。
内容をよく読んでいなかったというのは、通常、言い訳になりません。
もちろん、上記の困難事件も、事情によっては勝てることもありますので、最終的には事案によるということになります。
ステークホルダーが多い事件
事件によっては、当事者が多く、多数のステークホルダーの利害を調整しなければならないものがあります。
依頼者の利益を最大化することを考えれば良いわけではないケースです。
この場合、Aを立てればBが立たずのような状態が起きるので、当事者が二者しかいない場合と比べて、事件の難易度は格段に上がります。
具体例を挙げるのが難しいですが、①依頼者複数の場合、②相手方複数の場合、③当事者は二者だがそれに関わる無視できない第三者が存在する場合などが考えられます(①②③の複合形態もあります)。
もっとも、このような利害調整は弁護士の腕の見せ所であるともいえます。
命の危険がある場合
事件の相手方が反社会的勢力に属する者であったり、一般人であっても暴力癖のある人物である場合、弁護士にも一定の覚悟が求められます。
場合によっては警察に警備をしてもらうような事件もありますが、基本的には自分の身は自分で守らなければなりません。
事件の相手方から襲撃を受けたり、依頼者から逆恨みを買い襲われるといった事件が起こっていますので、細心の注意が必要です。
依頼者との信頼関係が崩れてしまった場合
以前の記事でも書きましたが、依頼者との信頼関係が崩れてしまうことは、弁護士にとって非常につらい状況となります。
比較的イージーだと思っていた案件が、依頼者との関係構築に失敗してとたんに困難事案に変貌するということがあります。
そこからのリカバリーが重要なのですが、いずれにしても、通常事件の何倍もの労力がかかってしまうことになります。
最後に
難しい事件だからといってはなから受任しないという態度では、弁護士をやっている意味がありません。
難しい事件は難しいなりにやりかたがありますので、大切なのは、依頼者とのコミュニケーションを密にとり、十分な説明のもと、獲得目標に向けて邁進することだと思います。