時事

「東京ミネルヴァ法律事務所の破産」について

 本記事では、「東京ミネルヴァ法律事務所の破産」の報道に接し、現時点で報道されている事実を前提として、内容の解説をしてみたいと思います。

東京ミネルヴァ法律事務所とは

 現在はホームページが閉鎖されているので、詳細は分かりませんが、東京ミネルヴァ法律事務所は2012年に設立された弁護士法人で、債務整理、B型肝炎給付金請求などを主に取り扱っており、所属弁護士数は6名程度だったようです。

 私は、あまり聞いたことがありませんでした。

今回の破産の経緯

 報道によると、同法人は2020年6月に解散したようですが、同法人が所属する第一東京弁護士会が裁判所に債権者破産の申し立てをし、破産開始決定を受けたようです。

 つまり、自ら破産申立をするいわゆる自己破産ではなかったということです。

 また、第一東京弁護士会は滞納された会費を債権として破産を申し立てたようですが、以前から同法人の依頼者から「弁護士と連絡が取れない」等の苦情が出ていたようです。

 未精算の過払金等が依頼者に返金されないままになっており、しかもその数が相当数に上ると考えられたことから、法的手続きにのせて処理を図ることにしたものと思われます。

負債の内容

 報道によると、微妙に金額は異なるものの、負債総額約50億円という数字が出ていて、私には2つの疑問が生じました。

  • 債権者破産なのに、負債総額がすでに判明しているのはなぜか。
  • 仮に負債約50億円という数字が正しいとして内訳はどうなっているのか。

 以下、現状で私が調べた範囲で分析してみます。

負債総額について

 約50億円というのは、東京商工リサーチによると、同法人の2019年3月期決算の負債の額が約52億円だそうです。

 おそらく、同法人は2020年3月期は決算報告をしていないため、申立人である第一東京弁護士会または破産管財人は、1年前のこの数字を現時点で判明している負債としてプレスリリースしたものと考えられます。

負債総額52億円の内訳とは

 また、この52億円というのは、その大半が「預り金」と「未払金」ということです。

 「預り金」というのは、通常、弁護士が事件処理にあたるに際し、着手金とは別に、実費の前払金として預かる性質のものを指します。

 事件処理に必要な実費は、事件終了時に報酬金と一緒に依頼者に払ってもらえば良いのですが、事件終了まで時間がかかることが多いので、法律事務所の経営的理由(キャッシュフロー)から、そのような慣行があります。

 ただ、管理コストがかかるので、法律事務所によってはこのような預り金を求めないところもあります(私も基本的には事件終了時に請求するタイプです)。

 大々的に広告を打って過払金等の事件を大量に受任している法律事務所では、着手金不要という割に、必ずしも趣旨がはっきりしない預り金を入金させるところがあります(私も、某法律事務所の依頼者から相談を聞いたときに知りました)。

 また、債務整理の場合には、いったん依頼者から法律事務所に入金させて各債権者への支払いをしているところもあるようです。

 ミネルヴァ法律事務所がそうだったかは正直分かりませんが、このように依頼者から何らかの理由で預かった金員が1年前の決算時点で相当な金額に上っていたようです。

 また、「未払金」は、過払金を取り戻して、依頼者へ返金する前の金員が中心であると考えられます。

 弁護士は、相手方から依頼者へ金員が支払われる際に、弁護士報酬の確保のため、相手方からいったん法律事務所の口座に入金させ、報酬金を差し引いてから依頼者に返金します。

 これは、基本的にどの法律事務所でもそうしていると思います。

 ただ、本来であれば、このような未払金は、ただちに依頼者に返金すべき筋合いのものなので、大きな金額が法律事務所の口座に留まっているというのは健全な状態とはいえません。

負債52億円の意味

 上記のとおり、「預り金」というのは余れば依頼者に返金しますし、「未払金」もできるだけ早期に依頼者に返金すべきものです。

 したがって、貸借対照表上は、たしかに一時的には「負債」扱いにはなりますが、「資産」のほうには同じだけの現金預金があるはずなのです。

 つまり、本来は、負債が52億円あっても、資産も同じだけあるはずなので、貸借対照表はバランスしており、それだけでは債務超過になっているとはいえないはずなのです。

 もし、「預り金」と「未払金」に相当する現金預金がなかったとしたら、それは、依頼者のお金を他の使途に使ってしまったということを意味します。

 これは、もうその時点でアウトです。

 ただし、同法人の決算書にいう「預り金」、「未払金」というのが、上記のような理解のもとで区分けされているかどうかは不明なので、あくまで推測にはなります。

破産事件の見通し

 破産事件においては、破産管財人が、同法人の財産を保全し、債権者(依頼者)の債権の調査をした上で、配当可能と判断した場合には案分で配当がなされます。

 しかしながら、同法人の財産が散逸している場合の調査は困難を極めると思われ、また、債権者(依頼者)の債権確定も容易ではありません(いくら預けたかは分かっても、どのくらい実費として使われたかは担当事務員の協力なしには分からない)。

 無限責任を負う各弁護士への責任追及がどうなるかも、現時点では分かりませんが、法人に財産が残っていない場合は、被害弁護団などが結成されるかもしれません。

 破産事件終結まではかなりの時間がかかると思われます。

 なお、破産事件の決着とは別に、依頼している事件が未だ終了していない依頼者はどうすべきかという点が問題になりますが、早急に別の弁護士に依頼する必要があります(着手金の二重払い等の不利益が発生するかもしれません)。

 第一東京弁護士会では、臨時電話窓口を設置しているようなので、ホームページをご覧になってお問合せ下さい。

最後に

 あまりに大きく報道されたニュースなので、このブログで初めて時事を取り扱ってみました。

 どうしても情報が限定されるので不正確な部分は否めませんが、「負債52億円」という点については、「弁護士法人ってそんなに借入金ないはずだよね?」と専門家でも意味が良く分からないということがありますので、若干の分析と解説をしてみました。

 繰り返しになりますが、同法人に依頼されている方は、早急に上記相談窓口に連絡されることをおすすめします。